給与計算をする上で必要な知識(割増賃金)

給与計算をするためには、最低限知っておかなければならないことがあります。その1つが割増賃金についてです。

割増賃金

例えば、就業規則で所定労働時間が8時間と定められている会社で、時給1000円の従業員が1日に9時間勤務した場合、その日の給与はいくらになるでしょうか?

時給1000円 × 9時間 = 9000円

とは、ならないのが給与計算の難しいところ。

所定労働時間(前述の例の場合8時間)を超えた労働に対する賃金については、会社で定める割増賃金を支払わなければなりません。

割増賃金の割増率については法令で以下の通り定められています。

  • 時間外労働 : 2割5分以上
  • 休日労働  : 3割5分以上
  • 深夜労働  : 2割5分以上

ここでいう時間外労働とはいわゆる「法定労働時間(8時間)」を超える労働のことを指しています。また、休日労働については「法定休日(週1回の休日)」に労働させた場合のことです。深夜労働は午後10時から午前5時の時間帯の労働をいいます。

先ほどの例で登場した時給1000円の従業員が、平日に13時から23時まで勤務した場合(途中17時から18時は休憩時間)の給与は、どのように計算するか考えてみましょう。1日の所定労働時間は先ほどと同様に8時間とします。

まず所定時間の8時間について計算します。13時から22時までが所定労働時間となります。そうすると所定労働時間内の給与は

時給1000円 × 8時間 = 8000円

と計算できます。ここまでは、それほど難しくないはず。ちょっと難しくなるのはここからです。

続いて、所定労働時間を超えた労働時間について給与を計算してみます。所定労働時間を超えた時間は、22時から23時までの1時間です。

ここで、先ほど説明した割増賃金の割増率を思い出してください。

時間外労働は2割5分以上の割増賃金が必要です。仮にこの従業員の会社の割増率が2割5分(25%)だとすると、時給1000円に対し25%の割増が必要となります。つまり

時給1000円 × 25% = 250円

を時給1000円に上乗せすることになり、時間外労働1時間あたり1250円の給与を支払うことになります。ということは22時から23時までの労働時間に対する給与は

割増時給1250円 × 1時間 = 1250円

と計算されます。

ということは所定労働時間分の8000円と時間外労働分の1250円の合計額がこの従業員の給与になるでしょうか?勘のいい方は気付いておられると思いますが、ここで先ほど説明した割増率をもう一度思い出してください。

午後10時から午前5時までの時間帯に労働した場合は深夜の割増が発生するんです。この会社の深夜労働に対する割増率が25%だとすると

時給1000円 × 25% = 250円

がさらに加算されます。

以上のことから、この時給1000円の従業員が13時から23時まで勤務(17時から18時は休憩時間)した場合の1日の給与は、

  1. 所定内労働に対する給与:時給1000円×8時間=8000円
  2. 時間外労働に対する給与:割増時給1250円×1時間=1250円
  3. 深夜労働に対する給与 :深夜割増250円×1時間=250円

を合計し、

支給合計9500円

となります。

いかがでしょうか。簡単に出来そうで、実はちょっと面倒なのが給与計算です。

他にも給与計算を行う上で知っておかなければならないことはありますので、また次回説明させていただきます。

給与計算をはじめる前の準備(労働条件の明示)

労働条件(給与支払条件)の決定

労働者に支給する給与を計算するにあたって、その労働者の基本給や手当(例:通勤手当、家族手当、住宅手当など)を事前に決定しておかなければなりません。

また、給与の締日(いつからいつまでの期間を給与の対象とするか)や支給日も決めておく必要があります。

これらは労働者を雇用する際に「労働条件明示書」に記載しなければならない内容でもあり、雇い入れ日までに書面にて労働者に交付します。

労働条件明示書に記載しなければならない事項

書面の交付による明示事項

  1. 労働契約の期間
  2. 就業の場所・従事する業務の内容
  3. 始業時刻・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、2組以上の勤務班に分けて勤務(交代制勤務)をさせる場合における就業時転換に関する事項(交替期日、交替順序、交替時間など)
  4. 賃金の決定・計算・支払いの時期に関する事項
  5. 退職に関する事項(解雇の自由を含む)

口頭の明示で構わない事項

  1. 昇給に関する事項
  2. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法、支払いの時期に関する事項
  3. 臨時に支払われる賃金・賞与などに関する事項
  4. 労働者に負担させる食費・作業用品その他に関する事項
  5. 安全衛生に関する事項
  6. 職業訓練に関する事項
  7. 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
  8. 表彰、制裁に関する事項
  9. 休職に関する事項

賃金については、基本となる賃金額(月給、日給、時給)、手当額(とその計算方法)、所定労働時間を超えた労働、休日労働または深夜労働に対して支払われる割増賃金率、賃金の締切日・支給日(例:毎月15日締め、当月25日支給)、賃金の支払い方法(現金支給、労働者指定の口座への振込など)を労働条件明示書に記載します。

通勤手当、住宅手当または家族手当のように一定の条件を満たしている労働者全員に対して支給される賃金は、予め就業規則や賃金規程に支給条件や計算方法を定めておいたほうがいいでしょう。

ちなみに就業規則については常時10人以上従業員を雇用している事業所は必ず作成しなければならず、さらに作成した就業規則を事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に届け出なければなりません。

この就業規則には必ず記載しなければならない項目があり、前述の労働条件明示書の記載事項と重なる項目でもありますが

  • 始業時刻・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、2組以上の勤務班に分けて勤務(交代制勤務)をさせる場合における就業時転換に関する事項(交替期日、交替順序、交替時間など)
  • 賃金の決定・計算・支払いの時期に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の自由を含む)

については就業規則(または給与規程)に記載が必要です。

従業員数が10人未満の場合でも給与計算を行う上で、事業所の給与支給に関するルールが就業規則等によって明文化していると、支給金額の計算ミスや給与支払いに関するトラブルの未然防止につながります。

給与計算ってなに?

どうも、社労士のハセガワです。

このカテゴリーでは給与計算に関する情報を提供していきたいと思います。

さて、1回目のタイトルは「給与計算ってなに?」となっておりますが、

給与計算の文字から読み取ると、「給与を計算すること」になります。

そのまんまやん!という答えが返ってきそうですので、もう少し分解して考えていきましょう。

まず、給与とは何か?

給与と似た言葉に「給料」という言葉があります。給与=給料と思われている方もいらっしゃると思います。(←私も普段、特に意識して使い分けしておりません。。。)

給与所得という言葉が出てくる所得税法では、「給与所得」は賃金、俸給、手当など名称にとらわれず労働の対償として支払われるもの全般を指しています。

一方、「給料」とは、公務員等の間で使用されることが多いのですが、基本給を指すことが一般的です(家族手当や住宅手当などは含まないということ)。

で、さらに混乱させて申し訳ないのですが、給与と似た意味で使用されている言葉で「賃金」というワードもあります。

「賃金」については、労働基準法に

「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として 使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」

と定められています。

ここまで見ると、所得税法と労働基準法で定義の仕方は違いますが、まとめると「給与とは、労働の対償として支払われるもの(現物給付も含まれる)」と解釈するのが最もわかりやすいのではないかと思います。

私の場合は、実務上、給与と賞与を使い分ける必要があるため、

給与⇒毎月の労働に対して支払われる金銭&現物給付

賞与⇒一定期間における会社の業績および個人の業績・成果に応じて支払われる金銭&現物給付

として捉えています。

以上をまとめると、「給与を計算する」ということは

従業員(労働者)の毎月の労働(労働時間、業績、労働に付随するその他事情など)に対して会社・事業主(使用者)がその対価として支払う金銭および現物給付の金額を計算する

ということになります。

そうすると、労働の対価として支給されるものを計算するだけでいいかと言うと、実際はそうではないですよね。

給与明細を見てみると、支給される金額もあれば、控除されている金額もあります。控除されるものとして代表的なものは、所得税、住民税、社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料)、雇用保険料などです。

したがって、「給与計算」とは、労働の対価として支給される金額を計算し、かつ、税金や社会保険料等の控除(源泉徴収)する金額を計算し、差し引き支給額を求めることを言います。

支給金額と控除金額を計算することが給与計算であることがわかりました。言葉では簡単そうに聞こえるのですが、支給金額の計算や控除金額の計算には様々なルールに従って計算する必要があります。

その点については次回ご説明します。

給与支払報告書の提出は1月31日までに

どうも、社労士のハセガワです。

今さらですが、新年あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします!

さて、企業で人事・労務のお仕事をされている方の1月の仕事として

市町村への「給与支払報告書」の提出があります。

そもそも「給与支払報告書」ってなに???

という方のために簡単に説明しますと

今年の住民税の金額を決定するために必要とされる書類

です。

では、実際にどんなものかと言いますと

見た目・記載内容は「源泉徴収票」とほぼ同じ。

ですので、実務処理上、

年末調整終了後、

源泉徴収票と一緒に印刷をかけます。

では、具体的に提出方法はどうなっているのでしょうか。

提出までの流れは以下の通りです。

※給与計算システムを使用していることを前提に説明します。

①給与システムから印刷した給与支払報告書を提出する市区町村ごとに分ける

基本的に給与支払報告書の提出先は従業員の住民登録地の市区町村です。

住民登録がされていない市区町村へ送付すると、後日返戻されます。

②総括表を作成する

法人番号、提出区分、事業種目、提出先市区町村数、受給者総人数、徴収区分(特別徴収、普通徴収)ごとの人数を記入し、法人番号、提出区分、事業種目、提出先市区町村数、受給者総人数、徴収区分(特別徴収、普通徴収)ごとの人数を記入し、給与支払報告書の表紙とします。

総括表は前もって市町村から送られてくることがよくありますが、必ずしも市町村から送られてくる用紙を使わなくても問題ありません。

給与システムによっては、統一書式で各市町村ごとに総括表を印刷する機能があったりします。

③総括表を表紙にし(一番上におき)、給与支払報告書とセットしたものを各市町村へ送付する

提出期限は毎年1月31日までです。

提出した給与支払報告書の対象となる従業員がその市町村に住民登録をされていない場合は事業所にその従業員の給与支払報告書は返戻され、正しい住民登録地へ再送することになります。

高年齢雇用継続給付

こんにちは!

枚方市(大阪府)にある社会保険労務士ハセガワ事務所 代表の長谷川です。

 

最初の投稿ということで、何について書こうか迷いましたが、つい先日、雇用保険の「高年齢雇用継続給付」の手続きをしましたので、そのことについて今回はお話しさせていただきます。

 

雇用保険には様々な給付があり、最も有名なものは失業等給付の基本手当(通称:失業保険、失業手当)ですが、雇用継続給付という種類の給付金で「高年齢雇用継続給付」というものがあります。

 

さらにこの給付は、高年齢雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金に分けられますが、今回は便宜上、以下の内容は、高年齢雇用継続基本給付金について説明させていただきます。

 

高年齢雇用継続給付はどのような場合に支給されるかと言うと、

60歳に達した際、定年後の再雇用等により、賃金が60歳前の賃金額よりも低下した場合に、その低下した割合に応じて支給されます。

 

具体的には、

【1】60歳以降に支給された賃金(月給)

が、

【2】60歳に達したときの賃金月額

の75%未満になったときに

支給された賃金(→【1】の金額)に一定の割合(0%~15%)を乗じて算出された額が給付金として支給されます。

 

この「高年齢雇用継続給付」は、60歳に達した月から65歳に達した月までに支給された賃金が対象となります。

 

また、60歳到達時賃金月額(→【2】の金額)には上限と下限があり、現在(H30.4時点)、

上限額は469,500円

下限額は74,100円

となっております。

 

また、支給される給付金の額にも限度があり、

計算された支給額と【1】の月給額との合計が支給限度額(H30.4時点で357,864円)を超える場合は、支給限度額から【1】の月給額を引いた額が給付金として支給されます。

 

この「高年齢雇用継続給付」の申請方法は以下の通りです。

申請後、約1週間後に対象者が指定した金融機関口座に給付金が振込されます。

 

【初めて申請する場合】

事業所を管轄しているハローワークに以下の書類をすべて提出。

  • 高年齢雇用継続給付受給資格確認票・初回高年齢雇用継続給付支給申請書
  • 60歳到達時等賃金証明書
  • 賃金台帳(60歳到達前6か月分および対象月の賃金額が記載されているもの)
  • タイムカードまたは出勤簿
  • 労働者名簿
  • 振込先となる金融機関口座の通帳写し(口座番号が記載されているページ)
  • 身分証明書(運転免許証など年齢が確認できる証明書の写し)

 

【2回目以降の申請の場合】

事業所を管轄しているハローワークに以下の書類をすべて提出。

  • 高年齢雇用継続給付支給申請書
  • 賃金台帳(対象月の賃金額が記載されているもの)
  • タイムカードまたは出勤簿

 

 

事務所のブログを開設しました!

社会保険労務士ハセガワ事務所の代表・長谷川正彦です。

 

本日よりブログを発信していきますので、

よろしくお願いします。

 

当事務所のブログでは、タイトル下にも記載している通り、

●労働基準法をはじめとする労働関連の法律や社会保険(健康保険、厚生年金保険など)に関連する法律の改正情報や規定の解釈

●企業の人事・労務・総務担当者の実務に関する情報

●その他社労士業務を通じて日々感じること

などを提供していきたいと思います。

 

 

どうぞよろしくお願いします。